ゲームアプリの言語(3)

さて、私が海外のゲームを英語表示でプレイしている理由は、もう一つあります。

それは、不自然な日本語が結構多いということです。

おそらく専門の翻訳家に頼むのではなく、元の言語を翻訳ソフトにかけてそのまま使用しているのでしょう。日本語で読んでも理解できなくて、後で英語に切り替えてようやく「ああ、そういうことか!」と初めて納得できることもわりとあります。

最近のゲームアプリは多言語に対応しているものが多く、特に大量のテキストやセリフがあるRPGとかだと、それぞれの言語の翻訳家+校正者に依頼すれば莫大な金額がかかりますので、機械翻訳に頼るのは致し方ない面があります。プレイ無料のものも多いですし。

ただ、機械翻訳による不自然な言い回し程度なら問題はないのですが、具体的な操作手順とかクエストの説明が理解できないとなると、ゲームがうまく進められないので悩む羽目になります。そのたびにいちいち英語版に切り替えるのも面倒なので、最初から英語表記でプレイしたほうが楽なんですよね。

といっても、英語表記でプレイすると面倒なこともありまして、一番やっかいなのは他の日本人プレイヤーと話すときにゲーム内用語に苦労することです。

多くのゲームでは、クランとかギルドと呼ばれる、プレイヤーのグループを作って一緒にプレイしたりチャットすることがよくあります。その中で、特定の呪文や装備といったゲーム内の用語を出して話すのが結構難しいのです。

たとえば、fire ballという呪文の話を日本語でしようとすると、日本語版では「ファイアーボール」とそのままカタカナになっているのか、あるいは「火の玉」や「炎の玉」など日本語に訳されているのかは、あらかじめ知らないと分かりませんし、間違ったものを選ぶと相手に通じにくくなります。

それどころか、わざわざ日本語に訳されていて、しかもそれが妙な訳になっていることもあって、その時は余計に話が噛み合いません。

例えば私がやっているゲームでは、Martial Mightという武具の名前が出てきます。martialは「戦いの、戦士の」の意味で、mightはこの場合は助動詞ではなく名詞の「力」の意味ですから、直訳だと「戦いの力」とか「戦士の力」となるはずです。ところが、このゲームではなんと「武道のかもしれません」と訳されているのです。見たときは思わず吹きました(笑)。

martial might →「武道のかもしれません」

うわあ・・・。
こんなの装備品の名前じゃない、というか名詞ですらないと感じるとは思いますが、機械翻訳した後に日本語ネイティブによるproof-reading(校正)を受けていないと制作者側で発見するのは不可能です。制作者側は日本語が全く分からないわけですし。例えて言えば、我々が日本語を翻訳アプリにアラビア語に訳させても、それが妥当かどうか判断する術がないのと同じですね。そもそも読めないですから・・・。

ただ、どんなに変でも、日本語でプレイしている人にとってはこの装備品の名前はこれなのです。したがって、普通に会話に出てくるわけですね。ところが、こちらは”Martial Might”だと思っているわけですから、いきなり『武道のかもしれません』と言われても、頭の中で一致しない・・・というか、「何言ってんの?」状態になります。

例えば、

「昨日、武道のかもしれませんがドロップしてさ~。なかなかいいよ」

とか言われても、全くわかりません(笑)。逆にこちらが”Martial Might”について語ろうとしたら、直訳して『戦いの力』とか『戦士の力』と書いても通じず、わざわざ日本語表記でアプリを再起動して、日本語版での名称が『武道のかもしれません』と確認して、その通りに書かなければならないわけです。いや、面倒くさいし、その名前で呼ぶのは抵抗があります(笑)。

このほかにも似たようなことはいっぱいあって、もう1つおもしろかった例としてはarcane bargainというスキルの名前があります。arcaneは「秘密めいて理解できるものがほとんどいない、謎めいた、神秘的な」の意味で、bargainはこの場合「契約」という意味です。ファンタジーなゲーム的に神とか精霊とかと契約して力を得るとかいう話かと思うので、「不可識の契約」とか「神秘の契り」とかそんな雰囲気かと思うのですが、日本語版では

「難解なバーゲン」

という訳になってました(笑)。これだけ読んで「ああ、精霊との契約のことね」とか察することができたらある意味スゴイです。でも、もし小説で「私は苦難の末、炎の精霊と難解なバーゲンを結んだ」とか書いてあったらちょっとおもしろいかも。

なお、こういった味のある訳は、特に昔からあるゲームに多いようです。上記の例は7年前にリリースされたゲームのものです。なので、まだ機械翻訳がまだ変な訳を付けることが多かった時期ですね。最近のゲームでは、機械翻訳の精度向上により、二度見するような訳はそこまで多くない印象です。

とはいえ、仮に正しい訳がついていても、やはり頭の中でいちいち訳して日英を一致させないといけないのは面倒です。また、英語での名称を直訳したからと言って日本語側の名称と一致しているかどうかわからないので、話が通じるか不安でもあります。さすがにそれは負担がかかりすぎるので、普段は海外のクランに加入することにしています。

規定言語が英語のクランに加入しても、英語圏外のメンバーもいますし、その際はこちらもあちらもノンネイティブということで、お互いにつたない英語で話すことになるのですが、それでも用語が正確というかお互いに一致しているだけ意思疎通はしやすいです。

そういえば、学会などで英語で発表しないといけない研究者や医師の方を教えたことが何度かあるのですが、「専門用語は英語から来たカタカナが多くて普段から慣れているし、共通理解のある専門的な話をするので発表自体は結構なんとかなる」と仰っていたことを思い出しました。合間の世間話とか終わった後の懇親会とかで話すほうがよっぽど難しいというのを聞いて、なるほどと思った記憶があります。

というわけで、ゲームをプレイされる方はぜひ一度英語に切り替えてやってみてください。勉強になりますし、「そういう意味だったのか』と意外な発見もあるかもしれません。