【復刻】日米ヒーロー戦隊の雇用方針

これから時々、昔掲載していた英語に関する体験談などで、今読んでも面白そうなものを加筆・修正しつつ復刻版として再掲載していこうと思います。その第一回は20年以上前に書いたものです。

私自身は、短期から中期のイギリス語学留学を数回繰り返していて、その最後に、妻と当時4歳の息子を連れて渡英し10ヶ月ほど住んだことがありました。以下の記事は、帰国した後に書いたものです。

なお、本文中に出てくる年代や年齢などは当時の時点でのものですので、2024年現在から見る時は20年ほど加えて考えてください。


2003年8月
日米ヒーロー戦隊の雇用方針

みなさんは『スーパー戦隊シリーズ』というのをご存じですか?5人組の男女が変身して色とりどりの戦士となって悪と戦うという子供向けの番組です。30~40代の方はシリーズ初代の『秘密戦隊ゴレンジャー』と聞けば分かるのではないでしょうか。私も、ちょうど小学1年か2年生ぐらいの時にこの『秘密戦隊ゴレンジャー』が放送開始となりまして、いつもTVで見ていました。現在は27作目『爆竜戦隊アバレンジャー』を放送していますが、今でも戦隊モノといわれて最初に思い出すのが『ゴレンジャー』です。もう放映されてから27年が経つわけですが、主題歌はまだサビの部分は歌えたりします(笑)

イギリスでもこのスーパー戦隊シリーズのいくつかを放映していました。おそらくアメリカで作られたものをそのままイギリスに持ってきていたようです。面白いことに特撮とかバトルスーツを着て戦う戦闘シーンは日本のものをそのまま使っているのですが、なぜか日常のシーンはわざわざ現地の俳優で取り直しているのです。最初見たとき「なんで吹き替えじゃないんだろう」って不思議な感じでした。これって、逆の立場で考えると、例えばスパイダーマンとかバットマンを日本に輸入したときに、アクションシーンはそのまま向こうのものを流用して、でマスクを取ったら日本人ってヤツを見るようなものですよね。なんかピンとこないな(笑)。そのため英語版を見ても元は日本の番組という感じはまったくしませんでした。

その戦隊ものの1つ『未来戦隊タイムレンジャー』をイギリスでもやっていたので見てみました。英語版では”Power Rangers Time Force”というタイトルです。タイムレンジャーは『秘密戦隊ゴレンジャー』の流れをくむ戦隊ヒーローもので、東映のウェブサイトによると24代目に当たり、日本では2000年2月13日 – 2001年2月11日の期間放映されていたそうです。たしか日曜日の朝やってて、私は子供が見てたのでつきあい程度に見てたこともあって、イギリスでこれをやっているのを見つけたときにはちょっと驚きでした。まあ『クレヨンしんちゃん』も”Shin-chan”というタイトルで放映されているぐらいですから、キャラクター商品などを商品化しやすいTV番組として目をつけられるのも当然といえます。

さて、基本的に戦隊ヒーローたちはたいてい5人で構成されていて、それぞれに色が割り当てられ、これまでの流れだとリーダー格の人が赤色のバトルスーツで『~レッド』と呼ばれます。『秘密戦隊ゴレンジャー』は「アカレンジャー」という和洋折衷でしたが…。で、多くの場合チームの一人が女性となっていて、5人一組で悪と戦うという設定です。使われる色は赤・青・黄色・緑・ピンクが基本です。

このタイムレンジャーも

タイムレッド
タイムピンク
タイムイエロー
タイムグリーン
タイムブルー

で、タイムピンクが女性、残りは男性という構成です。

この戦隊ヒーローものは英米でも高い人気があるようです。イギリスのおもちゃ屋でもキャラクター商品がたくさん並んでいましたし、TVでもコマーシャルを派手にやっていました。基本的に日本よりも1シリーズ分遅いぐらいのスケジュールでしょうか。今は昨年度まで日本で放送していた『忍風戦隊ハリケンジャー』が”Power Rangers Ninja Storm”という名前で放映されているようです。また、日本だと一作ごとに『~戦隊』という部分が変わるのですが、英語版ではPower Rangersという共通のタイトルが使われています。

『未来戦隊タイムレンジャー』”Power Rangers Time Force”
『百獣戦隊ガオレンジャー』”Power Rangers Wild Force”
『忍風戦隊ハリケンジャー』”Power Rangers Ninja Storm”

複数形の-sがちゃんとついているところがさすがネイティブです。日本でもスカイパーフェクTVの360chでこのシリーズのうち『救急戦隊ゴーゴーファイブ』のアメリカ版”Power Rangers Light Speed Rescue”を逆輸入して放映していますが、邦題は「パワーレンジャー ライトスピードレスキュー」となっておりまして、さりげなく複数形のsが省略されております。別に「パワーレンジャーズ」でもよかったと思うんですけどね。全く新たなタイトルにするのではなく英語をそのまま使ってるんだから。そのわりにメジャーリーグのTexas Rangersは「テキサス・レンジャーズ」なのに不思議です。

子供番組のタイトルに複数形の-sをつけると子供が理解できないなんていう意見もありますが、たぶん説明しても理解できないような幼児は最初から名前に疑問なんて持たないし、「レンジャーズ」がレンジャー+ズという図式も頭にないでしょう。その図式が頭に浮かぶためには英語の文法が分かっていないとダメですし。また逆に小学生にでもなれば「英語だと二人以上いると『ズ』か『ス』っていうねん」とでも言っておけば「ふ~ん」ってことになって、逆に雑学1つ教えられていいと思うんですけどね。どっちにしても、日本のプロ野球だって少年野球リトル・リーグのチームにだってみんな「ズ」がつくわけだから慣れてるはずだし、幼児も見ているデジモンのシリーズで「デジモンテイマーズ」ってのがありますが、これはちゃんとテイマーtamer「調教師・飼い慣らす人』に複数形の-sがついているわけですからね。なので、そこまで配慮する必要があるのかなと思ってしまいました。まあ、確かに日本語版の方は「ゴレンジャー」からはじまってずっと「~レンジャー」ときてましたからそれに合わしたと考えればそんなもんかとも思えますけども。

さて、イギリスにいた頃、ある日子供と二人で『タイムレンジャー』の英語版”Time Force”を見ていたときです。なんだか妙な違和感があって、なんか変だな~と考えながら番組を見ていました。「なんか違う」って感じだったんですよね。それでしばらく見ていてその原因が分かりました。それは、

男性のはずのタイムイエローが女性になってる!!

ということです。つまり、もともと日本では男性がやっていた役を女性にやらせているわけですね。なかなか思い切ったことをやってくれます。とはいっても戦闘シーン以外は現地の俳優で全て取り直しているし、日本のものを流用している特撮部分でもみんな仮面とバトルスーツを着て戦っているわけですから、日本版を見た人でなければ『タイムイエローの男女が入れ替わっている』なんてことはそんなに気がつかないでしょうけどね。ただ、もともと女性が演じていたタイムピンクはバトルスーツもちょっとスカートっぽく作ってあって体のラインも女性らしい感じなんですが(バトルスーツ着て演じている人が男性であっても女性らしい動きになっている)、タイムイエローはタイムレッドを初めとする男性隊員と同じ形状のスーツです。体のラインや動きも男性っぽいんで、じーっと見ていると気がつくかもしれません。

男女入れ替えの理由は、おそらく隊員の男女の比率に配慮してのことでしょう。男女平等の考えが徹底しているアメリカでは5人組の戦隊のうち男女の比率が4対1なのは道義的に許されないのかもしれませんね。TVのキャスト選定に関しては下手をすると関連団体からクレームがくるなんて話も聞いたことがあります。

逆に、日本だと私が覚えている限りでは、戦隊モノのほとんどが4対1の比率で女性が少なかったように思います。日本ではアニメの戦隊モノもいくつかありましたが5人組の時はだいたい4対1じゃなかったですか? 日本も男女雇用機会均等法が作られて数年経ちますが、少なくともヒーロー戦隊の空想世界の女性雇用状況は立ち後れているようです・・・。でも、ストーリー上はみんな好きでヒーローになったわけじゃないんですよね。単に選ばれたとか、たまたまそこを通りかかったとか割と偶然でやむなく悪と戦われることになったヒーローが多いし、そんでもって給料もらってるのかどうかもわかんないんで雇用とは呼べないですけど。あ、でも近年のウルトラマンシリーズだと女性隊員が二人いたような気がします。科学特捜隊とか地球防衛軍にも近代化の波が押し寄せているのでしょう。

男女の人数が変更されていたのは、Time Forceの後に始まった『ガオレンジャー』”Wild Force”も同じでした。日本では、

ガオレッド
ガオブラック
ガオイエロー
ガオホワイト
ガオブルー

のうち、ガオホワイトだけが女性でしたが、英語版ではガオイエローも女性に変更されていました。ということは、やはり4対1はまずいんでしょうね。

また、戦隊構成員の性別だけではなく人種もポイントです。戦隊5人とも白人ということのないように配慮されているようです。

これで思い出したんですが、そういえばスタートレックシリーズもそういう配慮がされているようでした。どのシリーズもメインキャラが7,8名いるのですが、複数の女性や黒人、アジア系などが必ず含まれていて要職についています。宇宙ステーションを舞台とした『スタートレックDS9』では主役のステーションの司令官に黒人の俳優を登用し、『スタートレック ボイジャー』では女性が艦長になりました。

子供向け番組の「ヒーロー戦隊」シリーズの出演者選定1つとっても、その社会性が出ていて興味深かったです。日本でもPower Rangersはスカパー360chで放映されているので、つないでいる方は是非一度ご覧になってください。


以上です。

ふーむ。この記事を執筆してから20年以上経過していますが、今でも当てはまりそうですね。それに、この間、日本の戦隊シリーズでも5人組のうち2人が女性ということが増えたようです。

また、話に出てくるスター・トレックについては、その後、”Star Trek Discovery”では同性愛者のキャラが正式に登場し、男性クルー同士の恋愛関係についても描写され、また、主人公が初めて黒人女性になるなど、時代の要請に合わせたものになっています。ちなみに、この女性主人公の名前は、”Michael”「マイケル」という主に男性に使われる名前になっておりまして、未来の平等感を表しているそうです。

元々は女性の名前だったものが男性にも使われるようになったり、その逆だったりはよくあることですので、Star Trek Discoveryの物語がスタートする200年後の世界では普通になっているのかもしれません。

あ、あと、「ゴレンジャー」の主題歌はもう思い出せなくなってました。さすがに年ですね。